自閉スペクトラム症で幼い方は、そもそもコミュニケーションというものに気づいていないことも多いです。特に「誰から」「どんな内容を」「誰に」伝えるか、という部分において。そのまま大人になることも多いのではないか、と思えます。

私の昔の経験

 小学校5年生、通常学級で成績は上位、既に不登校気味になっていました。他の学校へ対抗試合に行く時にみんなで並んで行きます。他の子たちはワイワイガヤガヤ大きな声でおしゃべりしています。するとその子はあらぬ方向に向かって「うるさいな!!」と叫んでいました。自閉スペクトラム症の方の「聴覚過敏」「思っていることをそのまま言ってしまう」などの特性とともに、「誰に(どの方向に)」伝えればいいのかがわからない、ということが見てとれます。


 C君、特別支援学校小学部5年生、私が TEACCH に基づいた指導を開始するまでは、いつもしかめっ面で、口の中にためた唾を飲み込むこともできず、吐くこともできず、時折苛立ちで机を叩いていました。受容性のコミュニケーション(周囲から伝えられることがわかる)の視覚支援と同時に、表現性のコミュニケーション(自分の意思を周囲に伝える)のために、単語カードにいろいろなことを書いて、描いて、それを周囲に見せる、つまむなどして意思表示をしてもらおうとしましたが、なかなかうまくいきません。ある時、彼がくすぐられて喜んでいるのを見て、「くすぐって(関西弁では「こそばして」)」が要求できるカードを作ったところすぐに使えるようになり、どんどん使えるカードが増えていきました。

 で、カードがどんどん増えていったので、意思表示の手段がコミュニケーションブックに進化しました。(下の画像ですが、「本人が伝えたい」でなく「こちらが言わせたい」がだいぶあるのが恥ずかしいです)


 ところが、問題が出てきました。彼は確かにコミュニケーションブックを開いて、伝えたい部分を押さえるのですが、相手が見ていようが見ていまいがおかまいなし。周囲の人間が気づいてあげないと、要求がかなえられません。そこでこんな練習をしました。

 これにより、C君は伝えたい相手に自分の要求を伝えられるようになりました。ついでにそれまで合わなかった視線が合うようになりました。詳しくは「自閉症のお子さんの表現コミュニケーションの獲得」をご覧ください。

 これらのことを考えると、PECS® が「伝えたい相手に絵カードをトンとする」「持つ」「渡す」ことで要求が叶う、からスタートするのはたいへん合理的に思えます。

 また、おめめどう®の「おはなしメモ®」の図柄も「誰から、誰へ、どんな内容を伝えるのか」を視覚的に伝えるために、たいへん合理的だと思えます。

 これは、支援級、6年生のお子さん。自分が嫌いなお子さんを叩いてしまうので、この前にもいろいろ「おはなしメモ」で伝えていますが、これが最後の1枚です。
 周囲に記録を残しています。
「結果。今日、トラブルなし。全体に「いい子」になってしまった。◯◯先生に「おばちゃん先生」と言っていたのが、「◯◯先生」と言っていたそう」
(この書き方から、私が「いい子」になることが良いと思っていないこともわかります)

 これはお子さんがタイマーを壊したので、お母さんからお子さんたちへ、弁償してね」を伝えたメモ帳。
 「誰から」の部分に「母」と書いて、怒りの表情も描いています。「誰へ」のところには、「子どもたち」となっています。
 説教というか怒っているのですが、使い始めると、何か「面白いなあ」と感じられる方が多いようです。

 おめめどうの支援グッズはどれも、最終的にはお子さんご本人が自発的に使うことを目指しています。しかし、いろいろな条件で、書くことが苦手だったり、書けなかったりするお子さんもおられます。
 これは、親御さんが書いた「おはなしメモ」を理解したり、親御さんが書いたメモをご本人から親御さんに渡して要求できるようになったお子さん。しかし、字を書くのは苦手で自分で書くことはありませんでした。ひょっとしたら大きなものだったら書けるかも、という要望により、おめめどうが大判の「おはなしビッグ®」を開発し販売を始めました。
 初めて購入した日に「(漫画の)くるねこ9予やく(してください)」を自分で書いて要求して来られたそうです。


もっと深めたい人のために

『コミック会話 自閉症など発達障害のある子どものためのコミュニケーション支援法』

2005年に出た本です。

Amazon の解説から
 簡単な描画と色を使い進行中の会話を図示することで、自閉症の子どもとの情報交換、コミュニケーションを支援する道具、コミック会話。本書は、その実践的な使用法を懇切丁寧に解説した初の「コミック会話」入門書。巻末にはコピーして使えるシートを収録。