自閉スペクトラム症のお子さんは、時間のみとおしがつきにくいです。そのためスケジュールの利用について説明されることは最近増えてきましたが、月日の見通しをつけるためにカレンダーも重要です。「うちの子、カレンダーはわかりません」という方は特に、また「うちの子、普通(七曜式)のカレンダーをわかっています」という場合でも、一度「巻物カレンダー®」という日の流れが一軸方向のものを使ってみて頂けませんか。カレンダーはたとえ現在わかっていなくても、日常生活に当たり前にある物なので、常に暮らしの情報が掲示してあるところに置いてあげて下さい。
実は、おめめどうが「一軸方向に日が動くカレンダーが大事」と強く言い出してからも、私はその大切さがわかっていませんでした。「七曜式(つまり普通の)カレンダーでも見てわかるじゃない」と思っていたし、学校で授業をしている限りにおいては、それほど重要性も感じませんでした。ただし思い返して見ると、小学校通常クラスでも小学6年生では、3月に入ると前の黒板の左上に上の写真にあるようなカレンダーをチョークで書き、卒業式までのカウントダウンをしているクラスが多かったです。またモンテッソーリ教育で有名なマリア・モンテッソーリは、上記のようなカレンダーのアイデアを述べておられたようです。
カレンダー以前
神戸にまだそごう百貨店があった頃の話です。私は2000年頃から神戸で TEACCH を中心とする学習会を立ち上げ、その後その研究会に参加される家族のために託児ボランティア活動を始めました。
その託児ボランティアの時の話。
託児活動が終わり、保護者への引き継ぎが終わった時。
ある一人のお子さん(小学校支援学級在籍)が泣いて動けなくなっていました。お母さんにうかがうと、そのお子さん、帰りにデパートに寄ってエスカレータに乗るのが好きで、いつもなら学習会が終わった後、そごう百貨店に行ってエスカレーターを楽しんでから帰っています。しかしその日は都合が悪くて行けないということでした。
学習会に参加されるくらいのお母さんですから、左のように紙に書いて、見せ「今日は行けません」と言い、口では「明日行くのに・・」ともおっしゃってました。なお、この「☓だけ見せる」というのは、視覚的支援を学び始めた方が陥りやすい間違いです。それこそ意図していなくても「見えない檻」「視覚の檻」になってしまいます。
そこで私は「明日行く」というのを確認、念押しした上でこんな絵を描いてその子に見せました。
これを見たお子さんは、一発で笑顔になって帰って行きました。
これは「楽しいことがあるとわかれば我慢できる」例とも言えるし「×には○を」の例かもしれません。
また私は無意識でしたが、「自分にいいことが起こる」を伝えるために使っていました。
そしてこれは後から考えるとカレンダーになっているわけですが、当時の私は気づきませんでした。
私がカレンダーの大切さに気づくのは、ウツによるネタキリ生活から起き出した2010年頃からです。
巻物カレンダー使用例1
このお子さん(小学校支援級在籍)の親御さんは、たまたまネットで知った巻物カレンダーを購入しておられました。しかしお子さんには学校にも行きしぶりがあり、カレンダーに学校と書くとビリビリに破いてしまうので使えていませんでした。その話をうかがった時、私は「まず学校は書かないでおきましょう。ご本人の楽しみなことだけかきましょう」とお願いして壁に貼って頂きました。
新たに放課後等デイサービスに行くことになったのですが、これもお子さんはしぶっていました。しかし、事前にスタッフがお子さんの好きな音楽を調べておき、来た時に聞かせてあげると大喜びしました。
ところが翌日、親御さんから私に、「今日も放デイに行く」と言って聞きません、と SOS の電話が入りました。そこで、巻物カレンダーの1週間後のところに、また行くことがわかるように書いて頂きました。
そのうえで、毎日、「火曜日、朝起きる。夜寝る」と言いながら、朝起きる絵、夜寝る絵を順番に書いていくようにお願いしました。こんなふうになりますね。
お願いした後、連絡が無かったのですが、後でお聞きすると、上図のように、木曜日まで書いたところで「もういい!」と言ったので、一緒に親御さんが予定していた買物に行き、その後は何も言わずとも翌週まで待てたそうです。
このエピソードで私が好きなのは、別にニコニコ納得したわけではなく、怒りながらも納得したというあたりです。
巻物カレンダー使用例2
この方は成人。支援学校卒業。いろいろな行動障害が出ておられました。この方の爪を親御さんが切ってあげていたのですが、ご本人が「爪を切って」の要求のために手を突き出して来る間隔がどんどん短くなり、ついには1日中親御さんの後ろを追いかけてきて、ずっと要求する状態になり親御さんが困っておられました。
そこで私は、手持ちの巻物カレンダー(中)を1枚と、左の爪切りの絵をラミネートし、2cm四方に切ったカードを4枚差し上げました(2週間毎に切る日に貼れば、順繰りに使えると考えました)。
そして、切ってあげた時にすぐに要求して来られたら、次に切る日を指さして教えてあげるようにお願いしました。すると、ちゃんと次の切る日まで待てるようになったとのことです。その後、ご自宅で巻物カレンダーを購入し、使用し続けておられます。
なお、この方は成人になってから、私が事業所の方にお願いしてスケジュールや選択活動をして頂くようにしましたら、少しずつ動きが改善して来られました。
- カレンダーってたいていの場合は、そんなものわからない小さな頃からごく普通に身の回りにあり、たいていの方は暮らしの中で自然と見方、使い方(予定を書き入れる)などを覚えていく場合がほとんどだと思います。しかし、自閉スペクトラム症の方は、ものの見方、わかり方が少し違っていて、そのままだとわかっておられない場合も多いと思われます。
- 「◯月◯日に〜〜があります」と言えても、時間の流れとしてはわかっておられない場合も多いかと思われます。周囲は予定を伝えていたつもりでも、ご本人にとっては、毎回イベントが突然に起こる感じがするのは怖いと思います。ましてや突然の変化には弱い方が多いですから。
- なお、私が現役教師時代、職員室にあったのは横長のホワイトボードのカレンダーでした。わかりやすかったです。
- 私はふだんは七曜式カレンダーを使いこなしていますが、人生で巻物カレンダーの必要性を痛感したことが3回あります。
- 大手術をして意識が明晰なつもりでも朦朧とした日が続いた時。
- 母がデイサービスに行くことが決まり、それが習慣として私に身につくまで(その時のカレンダーが下図です)
- 65歳から学校に行きだして、どこで気を抜いたらいいのかわからなくなった時(書いてみた結果、気を抜いていい時などないことがわかりました)
さらに深めたい人のために
『かがやけ!なないろキッズ』新美妙美著 定価 1600円
以下は Amazon に書いてある説明。
周囲との関わり方に苦労することの多い発達障害の子どもたち。特別とも見られがちな性向や行動も「なないろ」の個性ととらえ、そんな個性を持った子供たちの成長をどうサポートしていくか、一線で奮闘中のママさんドクターがアドバイスします。「自閉スペクトラム症」「ADHD(注意欠如・多動症)」といった障害に見られる独特な行動の理由を説明しながら、子どもの魅力の活かせるような関わり方や生活に役立つ工夫を、年代別また学校や家庭でのシーン別に伝えます。安心感につながる「見通しを立てること」に役立つスケジュール・カレンダーなど「視覚支援」グッズの作り方もイラスト解説します。著者の小児科医・新美妙美さんは、精神科医・本田秀夫教授の「信州大学医学部子どものこころの発達医学教室」で特任助教を務めています。