※ 2020年の Morin らの調査で、特別支援教員がプレテストを受けた中で 1位。
  全体でも 1位。

 事前環境調整(Antecedent-based intervention : ABI)とは、不適切な行動があったり、もっとやって欲しい行動があった場合、事前に環境を調整することで、不適切な行動を減らしたり、やって欲しい行動がうまくできるようになったり、その行動が増えたりすることを言います。

講座の中に出てくる最初の方の説明の「使用例」

1.幼稚園教師:ウォードの報告

 ニコルは消防訓練のさい、叫び、耳に手を当て、外に出ることを拒否し、先生が外へ(たぶんかなり強く押すなり引っ張るなりして)連れていく必要があった。ウォードが

  • 視覚的支援物を作成
  • 事前練習する

ことで、視覚的支援を提示すると外へ出る必要があることがわかり、耳に手は当てているが、ひとりで歩いて行けた。


 ちなみに同じような状況で、視覚支援物を作っていたのに、動けなかったお子さんが、手を加えたらひとりで動けるようになった例をお見せします。なお、これらの絵は、事前指導のさい、紙芝居としても見せています。その同じものを動けなかったお子さんに避難訓練の時に見せた場合の結果です。

これでは動き出すことができなかったが
これでひとりで逃げることができた

2.小学校教師:ハリスの報告

 アンドリューは足し算プリントをする時間になると、プリントを破り、先生が一緒に座って手伝ってくれない限り、やることを拒否した。機能的アセスメントをし、彼が「難しすぎる」と考えて避けようとしていると考えた。そこで

  • 問題に視覚的なてがかりをつけた
  • 問題数を減らした

という修正をすることにより、ひとりでやれるようになった。


 私は、もともとある A4サイズのプリントを、そのお子さんのできる量だけはさみで切ってカゴに入れておくことを、よくやっていました。それだけでプリントにむかえるようになるお子さんはおられました。


3.中学校支援級教師:ミッチェルの報告

 エヴァンはリュックから物を出すのに苦労し、いつも弁当を片付けることと、宿題を提出することを忘れていた。そしてそれに気づくと自傷した。そこで我々は

  • リュックを開ける視覚的支援物を作った

 これにより、指示通りに行動し、全て出すことができるようになり、自傷も減った。

※ 普段、日本で使われているやり方の用語でできるだけ説明したいため、訳語は不正確な部分もあるかもしれません。あくまでも「大意、こういうことだ」くらいのことです。

気づいたこと

 まず、「事前テスト」の段階で

  • 機能的アセスメント(Functional behavior assessment : FBA)
  • 強化(Reinforcement : R+)
  • 消去(Extinction : EXT)

という言葉が出てきます。そして上の「使用例」も早い段階で出てくるのですが、

  • 視覚的支援(Visual Supports : VS)

が出てきます。もちろん実践はたいていの場合、ある場面、あるお子さんに対して様々な技を複合させて使うので、当然なのです。
 そして視覚的支援(構造化)はすべてに関わっています。つまり自閉スペクトラム症のお子さんや、成人の方と関わろうとするなら、視覚的支援は必須の知識となります。そしてそれを「事前」に使って(また用意して)います。
 また「事前環境調整」と書きましたが、上の例はすべて周囲の人が困る、そして実は本人が何をどうするかわからなくて困っている行動の「前」に環境調整をするということなのですが、別に困った行動がなくても最初から環境調整していれば、そもそも困った行動は出にくいし、困った行動の激しさも少なくてすむし、対応もしやすくなります。

 なお、AFIRM の場合は、「自閉スペクトラム症入門」のところに

の3つの資料がついています(上のリンクは、少なくともアカウントを作ってサインインした状態だと、飛んでいくことができ、実物を見ることができます。サインインしていないと無理でしょうね)。「Key Terms for Introduction to ASD(自閉スペクトラム症の入門のための重要用語集)」については、その用語と場合によっては超簡単な説明を「自閉スペクトラム症入門」のところに置きます。

 それだけに、まったく初めて勉強しようという(私のように英語の苦手な)人は下記のような本などであらかじめ学習しておくことが必要でしょう。

『3ステップで行動問題を解決するハンドブック―小・中学校で役立つ応用行動分析学』

大久保賢一著
2019年発行
Amazon の解説の一部
 日々、学校や家庭で子どもと関わる中で、「なぜ言うことを聞いてくれないのか?」
「どうしてこんなこともできないのだろう」と思うこともあるでしょう。
「子どもが望ましい行動をやってくれない」「問題となる行動をやめてくれない」ことを本書では、『行動問題』と呼んでいます。
 教育活動や子育ての中で『行動問題』を解決できるよう、応用行動分析学(ABA)の理論や技法を活用し、子どもの育ちを3ステップで伸ばしていきます。

『自閉症のひとたちへの援助システム』

 この本は、1999年に出版された古い本ですが、早くにお亡くなりになった鈴木伸五さんの書かれた「第3章 構造化の理解と実際」のところが、わかりやすい図もあいまって、素晴らしいです。(文は安倍陽子さんも書かれていると思います)

  • スケジュール(時間のみとおし)
  • ワークシステム(作業や学習がしやすいように、わかりやすい環境設定)
  • 教室配置

など、またスケジュールの変化などもわかりやすく、解説されています。
 価格は500円+税 (たぶん表記が 550円となっているのは税込み価格)というたいへん安い本ですので、是非とも購入されることをお勧めします。
 一般の本屋さんでは売っていませんが、朝日新聞厚生文化事業団の「ガイドブック・DVD」のところから購入することができます。