放課後等デイサービスの壁に大きなホワイトボードパネルをつけ、複数人用の個別の列があるスケジュール。よく見ると、ちぎった紙に「こべつ(個別指導のこと)しません」と書いて、はっているお子さんがいます。私は普通の顔で「そうか」と言っただけでしたが、心の中は嬉しさでニコニコでした。スケジュールもコミュニケーションの手段にもなり得ます。
A4サイズのホワイトボードの個別スケジュール。放課後等デイサービスの「体験」の時のものです。
おめめどう®の「みとおしメモ」で作った個別スケジュール

 自閉スペクトラム症の方への見てわかるスケジュールの大切さはいろいろなところ言われるようになりました。しかし

  • その割には実際に使われることが少ない
  • いざ使いだしても、本人にとってその時点でやりたくない、あるいはそう興味もないことばかり強制される形になって
    • スケジュールの意味をなさない
    • それどころか他のコミュニケーション手段としての「見てわかるもの」を提示しても見たくなくて顔をそむけるようになる

 などの弊害が起こることすらあります。というかよくあります。
 これもカレンダーと一緒で「いつになったら自分のやりたいことができるか」というみとおしがたつスケジュールでないと使えるようになりません。我々だってそうで、私は現在は Googleカレンダーを、カレンダーとスケジュールの両方の意味合いで使っていますが、フルタイムで働いている時は、ほとんど外的に決まる特にやりたくもないことがほとんどの中で、自分の見たい映画をいつの何時に入れるか考え、それを見ながら頑張れる、みたいなところがありますよね。
 また、ここでも使用例のようなものを出しますが、「じゃあうちの子にも」とまったく同じものを見せてあげても、何の役にも立たないことが多いです。私も昔いろいろな本を読んでそのままマネをしてみてもうまくいかず、自分のやっている学習会に講師の方をお招きし、質問すると「本に書いてある形なんかどうでもよくって、ひとりひとりに合わせるの!」というお答えでした。その通りで、そのスケジュールを提示しようとしているお子さんが何がわかって、何がわからないのか、それを理解し、そのお子さんのわかるもので、また「どんな物にどんな意味を持たせているか」によって違ってきたりします。

 「何がわかるのか?」については、こちらが頭の中で考えているだけではわからないので、試行錯誤が必要になります。

 小さなお子さんで、カードなどを使ったことのない場合だと、具体物をまずは使っていくことにると思います(もちろん使ってみれば、最初からカードの使えるお子さんもいます。PECS®だと、絵カードで始めますが、やり方がきっちり決まっているので、ここではそんな研修を受けたことのない人を想定しています)。「靴を見せる」はたいてい「外へ行く」という意味かな、とわかってくれることも多いと思います。「マクドナルドのポテトの箱を見せる」は「マクドナルドへ行こう」という意味にわかってくれるかな?「タオルを見せる」のは「さあお風呂に入ろう」か「(外から帰って来て)手を洗おう」とかになるかな。とにかく、そのお子さんが何かをする時に、使ったり見えたりするものをいろいろやってみるといいと思います。

また、「手を洗う」でも、いろいろやってみて、上で書いたような「タオル」なのか「写真カード」なのか、「絵カード」なのか、「活字だけ」でいいのか。さらには「手書きでもOK」なのか。
 どれを使っても「価値の上下」は無いことに気をつけてください。そのお子さんにわかるかどうか、だけが問題です。ひとりひとり違うのですが、写真より絵のほうがわかりやすい傾向があるようです。また少ないですが、写真・絵は全然わからず字だとわかるという人もいます。
 字がわかるようになると、こちらがずいぶん楽になります。メモ帳などでその場でサラサラ書いて伝えられれば、絵が苦手な人でも、写真が用意できてなくても OK になりますし。
 それで私は、その時点でお子さんに字がわかっていなくても、絵や写真に必ず字もそえています。50 音としてわかる必要はなく、「なにかこの絵や写真の時にいつもくっついてくるひとかたまりのシルエット」と思ってくれれば、その後に発展しやすいですから。
 こんなふうに、暮らし(家庭生活や学校生活)の中で、そのお子さんに何がわかり何がわからないか、何ができ何ができないか、をさぐっていくことをインフォーマルなアセスメントと呼びます。

 なお、最初は「次の活動」を示して、できるかどうか、から始めると良いと思います。
具体物でうまくいった例。
 小学校支援学級6年生のお子さん。前担任は通常学級の子のひとりにその子の係を頼みました。「さあ音楽室に行こう」と言ってもその子は動きません。すると係の子がゴボウ抜きをするようにその子を立たせ、音楽室に連れて行ってました。
 新担任が私に相談に来たので、「音楽室に持って行く手提げ袋を持たせてあげてみて」とアドバイスをしました。持たせてあげるとその子は一人で音楽室に行きました。私は係の子に「今までありがとうね。これからは◯◯君は一人で行けるから、係しなくていいよ」と今までの苦労をねぎらいつつ、係をやめてもらいました。

初めてのスケジュール

 特別支援学校小学部1年生。いろいろ他害などもあったお子さん。私が初めて親御さんと会った時(年中さんくらいでした)に、「見てわかるスケジュール」の大切さをお伝えしておきました。次にお会いした時に「こんなの使えばいいでしょうか」と何枚か写真を持って来られたので、私はやって下さっているものと思っていました。環境の整ったところではトラブルも少なくなってきていました。

 特別支援学校に入学した後、行きしぶりが出ていたようです。夏休み明けに親御さんが私に悲鳴のような電話をかけて来られました。「学校にも、放課後等デイサービスにも行ってくれません!」
 私は?と思い、まずはスケジュールをしているかどうかをお尋ねすると、まったくやっていなかったそうです。私はとりあえず、スケジュールはどんなものかを再び説明し、書いて見せてあげて下さい、と伝えました。
 翌日電話で確認してみると「ルンルンで行きました」とのことでした。
 後でその時のスケジュールを見せてもらったら上記のものでした。申し訳ないですが、「見にくいなあ、わかりにくいなあ」という感想を持ちました。それでも「ルンルンで行ってくれた」のですね。
 わかりやすい形で、親御さんも書きやすい、おめめどう®のみとおしメモを使えば、楽に継続できるだろうな、と思いました。

私が初めてスケジュールの力に気づいた時

 TEACCHの研修に出て「スケジュールは大切だ」ということは言われました。そこで養護学校(特別支援学校)の教室の前にあるホワイトボードに、白画用紙を10cm四方に切ったものに、その時間にやることを書き、マグネットではりました。終わればはずして行きます。
 特にどうということもなく日々平穏に過ぎて行きました。私も「スケジュールって役にたっているのかな?」くらいの思いでした。
 そのうちに校内宿泊学習の日が来ました。
 これもまた淡々と過ぎ、二日目にA君(小学部5年)のお母さんが迎えに来られました。そしておっしゃいました。
「うちの子、昨日暴れませんでした?今まで1日目の3時頃には必ず暴れてたそうなんですが」
「えっ?!ぜんぜんそんなこと無かったよ」

 その時は気づいていなかったのですが、後で思い返すと、給食の後の休憩時間に、A君はスケジュールをじっとながめている時がありました。
 たぶんとしか言えませんが、A君はスケジュールを見てみとおしを持ち、落ち着いてすごすことができたのでしょうね。


 準備をせずにトラブルが起こり、その場を力や、一見リーダーシップがあるように見える指示でのり切った人が評価され、準備をしてトラブルを起こさない人は評価されない、ということはいろいろな組織でありそうです。
 また障害支援の分野では、障害そのものはシビアなのだけど、スケジュールなど環境を事前に整えた上で落ち着いて過ごせていると、障害そのものが軽いと判断され、いろいろな面の支援が減らされる、ということもよくあります。事前準備そのものにはある程度、時間も労力も必要なのですが。
 そのあたりの、事前準備、予防の努力が評価され、日々が平穏に過ごせるほうがいいな、と私は思います。

スケジュールや視覚支援を始めて

 小学校支援級6年生。他害などがひどくなっていて親御さんは困っておられました。学校では担任がいる時はいいのですけれど、いない時は他の方では手に負えない的なことは言われていましたが、担任からの「こんなふうに困っている」という連絡はあまり無かったそうです。ひょっとしたら親御さんにご負担をかけてはいけない、という担任の優しい気持ちがおありになったのかもしれません。
 しかし、親御さんはいろいろ困られ、いろいろな「療育」を試された後、効果が無かったり、親御さんの負担が大きかったりしたために、おめめどう®の支援グッズを使ってみようと考えられました。

 初めて使われたのが、6年生の冬休み。上の画像がその時のスケジュールです。「予定シート」ですね。よく見て頂くと、クシャクシャにされているのがわかります。親御さんの話では、「また俺にいらんことを言う気だな」というような気持ちだったのではないか、ということです。この「最初に見せたメモを破られる、投げられる」などは非常によくあることです。
 親御さんはめげずにスケジュールをはじめ、いろいろなメモを使い続けて下さいました。

「みとおしビッグ」みとおしメモの大きなサイズのものです。

 校外学習でミュージカルを見に行くことになりました。親御さんは、学校からスケジュールを聞き、「みとおしビッグ(みとおしメモの大きなもの)」に書いて、お子さんに持たせて登校させられました。それを特別支援専門員さんが見せながら活動しました。
 その後、特別支援専門員さんが「初めて落ち着いて参加できました」と感想を述べられたそうです。つまりそれまでは落ち着いて参加することができなかったことがわかります。
 なお視覚支援グッズは、小さいもののほうが収納などには便利ですが、使い始めの時は、大きなもののほうがお子さんわかりやすいことが多いです。
 この後、卒業式も親御さんの書いたスケジュールを使って立派に参加できました。(ただし、私は学校行事は学校でお子さんに合ったスケジュールを書いて頂けたら、と思うのですが)

 これは特別支援学校中学部に入学した4月に作ったスケジュールです。前半は親御さんか書かれていて、予定の変更をしていることもわかります。後半はお子さんが書いています。
 もともと小学校時代は「字を書かされる」ことが大嫌いだったとのことですが、スケジュールで自分のやりたいことが実現することがわかってくると、自ら書くようになったそうです。
 なお、他害云々は、これらの視覚的支援、自立課題活動を利用した家事で稼ぐ、行動援護で好きな活動をする、などで1年くらいで無くなって行きました。


さらに深めたい方のために

『自閉症のひとたちへの援助システム』

 この本は、1999年に出版された古い本ですが、早くにお亡くなりになった鈴木伸五さんの書かれた「第3章 構造化の理解と実際」のところが、わかりやすい図もあいまって、素晴らしいです。(文は安倍陽子さんも書かれていると思います)

  • スケジュール(時間のみとおし)
  • ワークシステム(作業や学習がしやすいように、わかりやすい環境設定)
  • 教室配置

など、またスケジュールの変化などもわかりやすく、解説されています。
 価格は500円+税 (たぶん表記が 550円となっているのは税込み価格)というたいへん安い本ですので、是非とも購入されることをお勧めします。
 一般の本屋さんでは売っていませんが、朝日新聞厚生文化事業団の「ガイドブック・DVD」のところから購入することができます。

『かがやけ!なないろキッズ』新美妙美著 定価 1600円

以下は Amazon に書いてある説明。

周囲との関わり方に苦労することの多い発達障害の子どもたち。特別とも見られがちな性向や行動も「なないろ」の個性ととらえ、そんな個性を持った子供たちの成長をどうサポートしていくか、一線で奮闘中のママさんドクターがアドバイスします。「自閉スペクトラム症」「ADHD(注意欠如・多動症)」といった障害に見られる独特な行動の理由を説明しながら、子どもの魅力の活かせるような関わり方や生活に役立つ工夫を、年代別また学校や家庭でのシーン別に伝えます。安心感につながる「見通しを立てること」に役立つスケジュール・カレンダーなど「視覚支援」グッズの作り方もイラスト解説します。著者の小児科医・新美妙美さんは、精神科医・本田秀夫教授の「信州大学医学部子どものこころの発達医学教室」で特任助教を務めています。